「誰にでもできます」とこの本の帯で著者は言っていますが、オープンダイアローグはやはり病院、精神科医、カウンセラーのいる場でなされることがほとんどのようで、この本の事例もそういう場でのものです。
けれども、子どもや他の人との会話においても、参考になることが何点も書かれていましたので、抜き出してみます。
「ネガティブなことは言わない」「その人が頑張っているところを評価したり、苦痛に対して共感したり」(p.60)。
「「そんなことあるわけがない」と反論するわけでもなく、「そうですねぇ」と同調するわけでもなく、ただ、「私はそういう経験をしたことないからよくわかりません」という基本姿勢で、「どういう経験か知りたいので、もっと教えてくれませんか」と尋ね続けた」(p.62)。
「不確実性に耐える」「ノープランで臨め」(p.67)。
誰かと話をする際に、こちらが会話のゴールをプランしていると、自由な展開が妨げられます。この話がどこに落ち着くのかわからないという不確実性に耐え、自由な会話展開に委ねることが大事だということでしょう。
「予測を立てて動く人は、予測を裏切られることが多い。するとだんだん悲観主義になっていくんです。予測を立てないでいると――予測を立てなくてもうまくいくことが多いものですから――楽観主義になります。治療においては、圧倒的に楽観主義のほうが有利です。悲観主義はなんの役にも立ちません」(p.68)。
これは、家族、職場、学校などでの会話にもかなりあてはまるのではないでしょうか。わたしなどいつも予測を立てすぎていたように反省しています。
「患者の訴えを解釈しすぎないようにしましょう」(p.81)。
こちらが治療者ではなく、相手が患者ではない場合でも、相手の言葉を深読みしすぎると、良くない場合がありますね。相手の言葉に不快感を覚えた場合、その背景に悪意を探ったりしてしまうのですが、ただこちらが不快に覚えただけで、相手には何の意図もない場合もあるでしょう。
「一致させるほうがある意味簡単なんですが、それがいい方向につながっていくとは思えない。違和感や、わからなさや、違い、そういったものが際立つほど、後で出てくる変化も大きいという気がするぐらいです。ですから、すぐわかった気になるとか、すぐ合意しちゃうとかそういうふうにならないように気をつけてほしい。合意できるんだけど、ある程度自分の違和感も口に出してみるとか、そういうことをあえてやってもいいと思いますし、とにかくいろんな意見が同時多発的にでてくるようにする。ポリフォニックな空間を目指していただくときに、わからなさというのは最高のスパイスになると思いますので、そこを温存しつつ、話を広げられたらいいなと思います」(p.88)。
これは、何かを決定しなければならないような話し合いや会議においても、ある程度、適用できるのではないでしょうか。一致を目指すにしても、多様な発言を促した方が、良い結論、良い一致のあり方が得られるのではないでしょうか。
「対話でしてはいけないことの筆頭は、「説得」です。それから「議論」や「説明」、あと「尋問」、そして「アドバイス」です。これは全て対話を妨げる手法になります・・・これらはすべて「結論ありき」の押しつけになりやすく、双方向性がないからです」(p.94)。
「自説開陳」も避けるべきことのようです。わたしも良くやってしまうのですが。
「患者の主観をとことん大事にすることです。彼/彼女がどういう世界に住んでいるのか。その住んでいる世界のありようをくわしく聞いて、あなた自身の主観と交換していただきたいと思います」(p.95)。
これも、臨床の場に限らず、日常会話でも、相手を尊重するなら、こころがけたい、大事にしたいと思いました。
「本人が、自分のことを「ダメな奴だ」と否定している場合も、それを否定してはいけない。でも一方で、「私たちから見るあなたは、そんなひどい人間ではないし、素晴らしいと思っている」ということを伝えてもかまわない」(p.111)。
本人が自分のことを「ダメな奴だ」と思っていることについては、「そんなことないよ」などとすぐに否定せず、その思いはそのまま受け入れて、その上で、こちらがその人のことをすばらしいと思っていることを伝えるということですね。
「個人のなかの声というのは、沈黙のときにいちばん活性化すると言われています」(p.112)。
対話の中で沈黙が生じるとわたしたちはすぐに何か話そうとしてしまいますが、じつは、沈黙の中でその人の声が活性化しているので、沈黙を大切にしましょう、ということですね。
「二人はどうしても権力関係になりやすく言葉は「言わされる」感じになりやすい」(p.144)。
これは、親子、師弟関係などで生じやすいですね。親として、「師」として、意識すべきですね。
「起こった出来事について話すというより、その出来事について自分がどう感じたかに焦点を当てて話す」(p.169)。
「起こった出来事」について話したり聞いたりすると、直線的に出来事の結末へと向けたくなりますが、感じたことについて話すと、空間的な広がりができるように思いました。