これの少し前に「食べものから学ぶ世界史」というのも出ていますから、高校の科目を題名に入れてやろうというシリーズなのでしょうね。つぎは、「食べものから学ぶ日本史」「食べものから学ぶ政治経済」「食べものから学ぶ倫理社会」「食べものから学ぶ地理」あたりでしょうか。
高校生向けだから、わかりやすいし、高校生向けだから、本格的ですね。ジュニアだけでなく、シニアが読まねば、というより、学ばねば、知らねばならない内容です。
「コンビニに限らずスィーツや加工食品に使われることの多い、砂糖と油脂と塩は、食品生産者にとって「競争相手を負かすためだけでなく、消費者にもっと買わせるためにも利用される兵器である」と指摘する本もあります。砂糖、油脂、塩は、生産コストを抑えてくれる安い食材であるだけなく、これらを上手い塩梅に組み合わせると、人間の身体が必要とする以上に飲み食いさせることができると」(p.15)。
日本では「スィーツ」などという言い方も、必要以上に砂糖や(主食や副食ではない)嗜好品を摂らせるカラクリなのではないでしょうか。
「もう「需要と供給の法則」を素直に見られなくなります」(p.19)。
甘いものを食べたいという需要があって「スィーツ」が供給されるのではなく、「スィーツ」の需要を捻りだし需要以上に売るカラクリがあれこれ産み出されているのです。
「小麦の価格を決めるシカゴ相場も、ドルや円の交換レートも、需要や供給より、ただ値動きで儲けようとする「投機筋」が9割方を動かしている」(p.19)。
「投資」は有益なものを生産するための協賛、資金提供ですが、投機には、生産物や事業内容への共感などではなく、買うときより高く売れるもの、という関心しかありません。
「こうして形成されていたこんな現代社会だからこそ、自然のめぐみや生命の糧であるはずだった農業と食料システムが、今や気候危機の一大要因となり、飢餓と肥満を併存させ、人も地球も壊す存在になってしまっている」(p.21)。
この良書は書名にもかかわらず文科省の教科書検定には合格せず、高校の「現代社会」の授業で採用されることもないでしょうね。現代社会とは「飢餓と肥満の併存」とみごとに言い当てているのですが。
「世界はますますタックスヘイブン化しているらしい。そのため、「富と権力を貧しい人々からゆたかな人々に移転する史上最大の力」のカラクリによって・・・年間2400億ドルか・・・7000億ユーロに及ぶ税収が、世界的に失われているそうです・・・タックスヘイブンに富を吸い上げられ続けたら、国家も私たちも地球の自然環境も、もう長くは持たないでしょう・・・農村への投資、子育てや教育への投資、保険やケアへの投資などなど・・・税収ロスによって、正しい富の分配機会が奪われているのだと思います」(p.76)。
企業というものは、税によって造られたり運用されたりしているインフラなどはただで利用しているのに、タックスヘイブンによってまともな税は払わない、それによる税収不足もあり、農村、子どもたち、保険、ケアなどには公的資金がほとんど使われないのです。
日本は食料自給率が低いと言われますが、その原因は「政府と財閥・総合商社も介入しながら、大手食品企業群が主に輸入原料を活用して日本の近代的食料システムを築いてきたと考えています」(p.97)。
ようするに、食料自給率が低い原因は、海外から輸入したがる企業やそれを支える政府にあるのに、それをごまかしているということですね。
63歳のぼくが今さらこういうことを学んだり考えたりしても遅い感はありますが、やはり考えないといけませんね。こういう本を出し続けている岩波書店はえらいです。
四大問題って何って? 帯には「グローバル化、巨大企業、金融化、技術革新」ですね。これらの問題の解決の鍵は、農産業ではなく農にあるのではないかと思いつつあります。