歴史はいつから始まるのでしょうか。ひとりひとりの生の堆積を歴史と呼ぶなら、歴史はそこに人が現われたときから始まることになります。
しかし、ラテンアメリカには500年以上前には人がいなかったのではありません。ヨーロッパ人がいなかっただけです。先住民の何千年もの歴史はすでにあったのです。ですから、「ラテンアメリカ500年」とは、コロンブスらがやってきたあとの、先住民とその子孫、また、ヨーロッパ人とその子孫の歴史、つまり、被侵略者と侵略者の歴史のことなのです。
本書には、ヨーロッパ人の侵略、先住民への虐待・虐殺、植民地支配、抵抗のいくつかの形、被支配者解放にはつながらない(ヨーロッパからの諸国の)独立、アメリカ合衆国による裏庭化、軍事独裁国家化、メキシコ革命の光と影、20世紀におけるアメリカなどによる弾圧とそこからの解放、そして、現在の闇と希望がつづられています。
「征服国、征服者、植民者にとって、『新大陸』とはまず『幻想領域』であり、それを自己の領域として確保し自由に活用できる場として認識されていた」「アメリカ大陸はこうした『文明』による『他者』支配の格好の実験の場であり、その実験の成果がその後欧米諸国によって生かされてゆく」(p.317)。
そして、欧米に追従した日本は、アイヌの大地(アイヌモシリ)や沖縄(ウチナー)、朝鮮や中国を『幻想領域』とし、そこに住む人びとを『他者』としたのです。
歴史を学ぶことは、その時代と地域の絶望と希望を知ろうとし、わたしたちの生きている時代と世界の絶望をしっかりと認識した上で、それを乗り越える希望を築くことでしょう。