504 「熱い人びと、熱い心、熱い物語、熱い思想」・・・「熱源」(川越宗一、文藝春秋、2019年)

 少数民族、先住民を踏みにじってはならない。軽蔑してもならない。

 この民は劣っているのでもなければ遅れているのでもない。「未開」なのでもない。「人間」(ギリヤークの言葉では「ニグブン」、アイヌの言葉では「アイヌ」)だ。「同じ人間」なのではない。言葉も文化も歴史も状況も「違う」。ただし、生きる存在という意味では「同じ」。

 

 この本は歴史物語であるが、思想書でもある。筋だけが気になり、ただ消費するだけの商品や娯楽ではない。

 「俺たちアイヌは子供じゃないし、和人どもの望むようになってやる義理もない」(p.51)。

 このセリフを一般化すれば、人は皆、子ども扱いされたり誰かの利益のために利用されてもならない、ということになろうか。けれども、これがアイヌと和人の関係で言われているから、思想になる。「俺たちアングロ系アメリカ人は子供じゃないし、先住民どもの望むようになってやる義理もない」なら、思想ではなく、反思想になってしまう。

 「学校について、出てれば偉いとか行けないやつは出来が悪いなどとは、露も思わない。けれど、学校というものに希望を託し、未来を信じ、駆けずり回った大人たちをイペカラは知っている」(p.413)。

 

 現状では、「同じ」はずの人間を「優」と「劣」に細分する教練所になっているが、学校は、在り様によっては、少なく踏み躙られる民の「希望」や「未来」になるはずだ。ここにも熱い思想がある。

 

 ただし、物語は思想の道具でも器でもない。物語そのものが思想なのだ。

 

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