146 「語りが語りを生み、支える」

「今、いのちを守る (TOMOセレクト 3・11後を生きる)」(片岡輝美著、日本キリスト教団出版局、2012年) 

 以前から原発反対の考えを持っていた人は少なくないでしょうが、そういう人でも、3・11以後は、あの日福島県に住んでいた人々の声を聞かなければならないと思います。推論による反原発から、被害者の声を聞くことによる原発断固否定へ。

 3・11以降の福島県や住民、出身者のことで何かを考えたり述べたりすることについても同様だと思います。論者や報道者の意見だけでなく、被害者自身の声を聞こうとし続けたい。

 誰が被害者か。被害者は女性です。(被害者は女性以外の人です。)被害者は子どもです。(被害者は大人です。)被害者は子どもを持つ女性です。(被害者は子どものいない女性です。)被害者は孫に自分の作った米を食べさせたい農家の高齢者です。

 この本は、著者が、あの日から今日に至るまで、経験してきた苦痛と苦悩とどん底と起き上がらされたことと手をつながれたこととともに歩んだことの、字数は少なくても、研ぎ澄まされた、深い「友語り」、「自分語り」です。

 原発に賛成の人も反対の人も、福島は安全だと思う人も汚染は深刻だと思う人も(もちろん、そのあいだの複雑なバリエーションのひとつの人も)、この本を読んで、もともと講演であったこの本の、著者の語りを聞いて、原発に徹底反対し、被害者のことを覚え、自分の人生の中でどのようにつながっていくか、あらためて考えましょう。

 ぼくは今年、著者が代表を務める会津放射能情報センターで、避難女性の数十分のお話を五回聴く機会に恵まれました。彼女らが来訪者にあれだけの辛いことを語ってくれる背景には、言葉をあれだけ紡げる背景には、センターが彼女らの声をじっと聴き続けてきたことがあるように思いました。

 また、センター代表である著者、片岡輝美さんの、たとえば、本書のような語りが、避難女性の語りを生み、支え、同時に、彼女らの語りが、輝美さんの語りを生み、支えているのだと思います。

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