「ふくしまノート2」(井上きみどり、TAKE SHOBO、2015年)
原発事故以来、福島の人びとは放射能汚染問題をどのように考え、取り組んできたのでしょうか。著者はそれを丁寧に取材し、十編のマンガで伝えています。
食品や土などの放射能を自発的に測定している人びと、沖縄は久米島で夏休みなどを過ごし保養する子どもたち、さまざまな立場・考えの四人の医師、津波や原発事故に見舞われた視覚障がい者と支援者、作物を汚染から守ろうとする農業関係者たち。医師の場合だけでなく、ひとつの事柄についてさまざまな意見や感覚の人びとがいますが、それぞれ、本当に一所懸命に臨んでいることがひしひしと伝わってきます。
ある医師はこう言います。医者は血圧が高い人にはそのリスクと予防を促すのに、放射能に関しては「大丈夫」としか言わないと。この指摘はするどいと思います。放射能に関しても、そのリスクや取りうる予防策を患者に伝えるべきではないでしょうか。
同じ医師がこうも言っています。情報が多すぎて何を信じたらよいかわからない時は、同じことについてのいくつかの情報を並べてみると、矛盾点が見えてくる。そういう努力をしないと正しい情報は得られないと。この指摘も有効だと思います。
原発事故が住民にもたらすダメージは放射能による直接の人体被害だけではありません。たとえば、狭い仮設住宅生活の長期化による生活習慣病の悪化、心筋梗塞や脳梗塞患者が増加しているそうです。目に見えない放射能への不安、元の町で生活できるのか、これからの人生はどうなるのか、こうしたことが大きなストレスになっていることでしょう。
地震や津波の際、もう少し支援があれば助かったはずの障がい者がたくさんいたそうです。避難生活においても障がい者にはさまざまなサポートが欠けています。たとえば、原発避難者にはぶあつい書類がたくさん送られてきますが、点字になっていないので、視覚障がい者には補償請求などに必要な手続きをとる上でおおきな困難があるのです。
「復興、復興」と叫ばれていますが、視覚障がい者を支援しているある人は、「一番困っている人、一番大変な人が、喜びを感じたり、生き生きと暮らせるようになることが、本当の『復興』だと思うんです」と述べています。オリンピックなどよりも、緊急の課題がいくつもあるのではないでしょうか。