「井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法」 (文:井上ひさし、絵:いわさきちひろ、2006年、講談社)
日本国憲法の前文と9条を、ちひろさんが絵に、ひさしさんが詩にしてくれました。
もともと格調高い憲法前文ですが、この本では、詩と絵によって、新生児のみずみずしさと、若者の希望と、熟年の柔らかさを発揮しています。
ひさしさんは、まず前書きで、9条により戦争と武力を放棄することは、戦わずに生きることは剣より強い、と剣豪たちが晩年に悟るのと等しいと述べています。
つづいて、前文を詩のような形に書き換えた言葉の中では、日本国民は、国会に送る代表を選び、「二度と戦をしないようにとしっかりことづけることにした」と言います。
9条をやさしく言い換えた文では、軍隊や武器ではなく「よく考えぬかれたことばこそ、わたしたちほんとうの力なのだ」と訴えています。これは、作家の作中から世界に飛び出てきたブンを主人公とする小説「ブンとフン」に始まって、小林多喜二を題材とするひさし最後の芝居「組曲虐殺」にいたるまでの姿勢でもありましょう。
憲法全体については、司馬遼太郎さんの言う「この国のかたち」とは憲法のことではないか、憲法がその国の性格を決めるとも指摘しています。
あとがきでは、憲法はアメリカに押し付けられたものではなく、そのころの世界の人たちの希望の集積であり、日本の民間人の願いも取り入れられたものだと訴えています。
ぼくたちが小中高で教えられ、なるほどと感心して学んだ宝。今それらを廃棄処分にしようとしている者たちがいますが、この本では、まだ、たしかに輝いています。