782 「農村は国家や企業のためにあるのではない」・・・「日本の農村社会とキリスト教」(星野正興、日本キリスト教団出版局、2005年)

 幕末までの農村社会には、自治と自由があったが、それ以降、貧しくされてきた、と著者は言う。

 

 ひとつは、地租改正による。穫れ高に関係なく地価に基づいて金で納税しなくてはならなくなった。また、入会地、草刈場のようにもともと共有地であったものが官有地とされ、以前はそこから自由に入手していた燃料、資料、肥料を、今度は金銭で買わなければならなくなった。こうして貧しくされる。

 農民は小作料を搾取され、資本家はもうかり、日本の資本主義化が進む。国も地租改正によって国家財政をまかなう。その結果、農民は貧しくなった。

 

 天皇が一番の地主となり、農村の地主はミニ天皇となる。神社制度が形成され、天皇につながる祭儀が村でなされ、村行事も農事もそれに基づく。こうして、農村の自治と自由は損なわれていく。

 

 キリスト教1860年代前後くらいまでは、自治と自由の農村に入り込む余地があったが、天皇・神社体制が固まると、撤退せざるを得なくなるし、農民の貧困や天皇制問題に教会は取り組まず、むしろ、農村からすすんで撤退したようだ。

 

 1900年代前半から「農民福音学校」を賀川豊彦らがすすめるが、これは、国策にのった「満州開拓基督教村構想」につながってしまう。ここにも天皇制や国家への批判はない。むしろ追従している。

 

 学徒動員は覚えられているが、農民が戦争に送り出されたことは空気のように当然のこととされ思い出されることはなかった。「農民をめぐる近・現代史の総体が、国家・国民をして、農民を戦争の第一線に送り出してしかるべきものと捉えさせた」(p.156)。

 ただし、農民福音学校などを通して伝えられた「立体農業」(「聖書農業」「三愛農業」)は国策に抗うものであった。国家は「大規模単作営農」を推進しようとするが、立体農業は各個が米、野菜、果樹など様々な作物を育てるのである。

 

 1961年に公布された農業基本法も「大規模営農」を押し付ける。「単作・大規模経営を目指す営農には手厚い保護が加えられ、そうではない営農を行う者には不利となる仕組みが築かれたのである。これが、国家が新たな地主的管理者になった証左である」(p.148)。

 

 「農地改革によって「明治地主制度」は終焉したとは言うものの、また天皇人間宣言や新憲法による天皇の象徴化があったとしても、それは、より強固な地主としての「国家」が旧地主に取って代わったということであり、日本の農村・農民をめぐる状況は基本的かつ根本的には変わらなかったのである。農地改革というアメを与え、収穫というムチをもって、国家は農民に向かったのである」(p.158)。

 

 農業基本法による農政は、高度経済成長と連携して、これからさき、日本の農業は、欧米型の企業的農業への道を歩まされる。しかし、それは、日本の気候や地形にあうものではなかった。そもそも、企業的農業に問題がある。巨大国際食糧ビジネスは地球環境を破壊するものであったことが、あきらかになってきている。国家は農村、農民、農業をそのようなところに連れて行こうとしていたのだ。

 

 それは暴力となってあらわれる。「単作・大規模・機械化農業に合わない農業は切り捨てるという政策との関連の中で浮上した地が三里塚だったのである」(p.224)。成田空港を建設するためにどれだけの国家暴力が振るわれことか。

 

 キリスト教は農村で何をしたのか。著者の指摘をいくつか挙げよう。教条的・原則主義的姿勢を崩さなかった。「教会のなす時代批判は当を得ていても、返す刀で地域文化も同時に切り捨てた」(p.254)、教会のメッセージは難解で、農民への励まし慰めになっていない。

 

 世界規模の異常気象、地球温暖化、世界規模の巨大食糧ビジネスによる自然破壊、二酸化炭素排出、それに加担する国家、貧富の格差、これらのつながりなどに関わる本を、ぼくは最近続けて読んでいるが、本書が問題にしている、天皇制国家による大規模単作農業推進も、同じ文脈にあるように感じた。

 

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