780「世界的規模の思想とつながっていくキリスト教思想の展開を」・・・「農村伝道神学校創立70周年記念誌 荒野を拓く」(2022年)

「農の神学」というZOOMミーティングを、広島の山間部に移住した友人の牧師らと月一くらいで細々とやっている。

 

これに刺激され、またメンバーのひとりに紹介され、今かなり売れているらしい「レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換」 (ジェレミー・リフキン)や「資本主義の次に来る世界」(ジェイソン・ヒッケル)も読んでみた。

 

この二冊では、人間中心の二元論(人間が主で、人間以外を対象物としてしまう・・・)を克服し、多様な生命の絡み合いでありつながりでありその総体である生命圏としての地球という思考が見られ、ここから、地球温暖化、気象変動、貧富の格差、差別を乗り越えようとする。

 

キリスト教の世界でもこのような思想的営みがなされて来なかったか、これを求めて、入手した数冊のうちの一冊が本書である。

 

そして、以下のような記述に共感した。

 

「農村伝道神学校の特徴は何よりも、すべての命の源である「土」と関係を持っていることだと思います。地球温暖化、気候の変化、また飢餓が世界中で増えている時にこそ、すべての命がつながっていることを意識して、共に生きる道を求めたいと考えています」(2022年の校長ロブ・ウィットマー)

 

「教師会は2004年に「農村伝道神学校の進む方向について」を公表し、(1)「農」かかわり、(2)戦争責任を担い、(3)大地と共同性を重んじる神学教育の方向性を示しました・・・農伝の「農の神学」のテーマは「農と食といのち」にあります。現在の世界、また日本の国家・社会の有り様は、様々な局面で大地・自然を破壊し、食を汚染し、いのちを脅かす問題に満ちています。原発の問題、沖縄の新基地建設問題、憲法の平和主義を破壊する安全保障政策等々に、「いのち」を脅かしないがしろにする日本社会の根源的な問題が噴出しています。農伝の神学教育はこの現実をしっかりと見据えて、何よりも「いのち」を生かす宣教の働きを担う宣教者を養成することに努めて参ります・・・現場における弱者の側に身を置いて、人間を分断し差別や抑圧を生み出していく様々な境界線を突破していく神学を追及して参ります」(高柳富夫元校長)

 

「旧約の預言者に関してイスラエル農民の立場が注目され(ヴォルフ、コッホ、ショットロフ)、新約に関しても都市と農村に関する社会的背景が明らかにされている( ヴォルフ、コッホ、ショットロフ  )、組織神学に関しては、近代的な物心(身心)二元論から自然と世界を捨象しがちな信仰理解を批判し、創造論宇宙論をとらえ直すべきであろう。特に生態学との対話が必要である。この点でモルトマンの「創造における神 生態学創造論」は注目に値する」(柏井信夫元校長)

 「「フードバンクのための野菜作り」・・・大阪のシングルマザーのご家庭に3360キロのジャガイモを送り」(藤吉求理子 卒業生、日本基督教団北海教区道北センター主事)

 こうしてみると、大枠としては、「レジリエンスの時代 」 (ジェレミー・リフキン)や「資本主義の次に来る世界」(ジェイソン・ヒッケル)に通じるような思想が日本のキリスト教会にも見られないわけではない、と言えよう。

 

 この思想が、キリスト教内でさらに深まり、広まること、また、この思想でキリスト教外ともつながること、そのような営みの拠点のひとつに農村伝道神学校はなっていくのではなかろうか。