421 「生は、正反対に見えるものの中にこそあったのです」    「点滴ポール 生き抜くという旗印」(岩崎航、ナナロク社、2013年)

 若松英輔さんの著作の中で紹介されていたので、ぼくも読んでみました。

 タイトルにすべてが集約されています。

 点滴バッグは、生命の危機、脆弱だけでなく、生命、希望、前進を意味していたのです。

 「たたかいだ/これで/何回目かの/救急車に/乗る」

 救急車で運ばれるのではありません。救急車に乗り込み、闘いに赴くのです。

 「泥の中から/蓮は 花咲く/そして/宿業の中から/僕は 花咲く」

 彼の現世は宿業ゆえのことと言う人がいるのでしょうか。けれども、彼は、罰を受けているのではなく、花開いているのだ、とうたいます。

 「誰もがある/いのちの奥底の/熾火は吹き消せない/消えたと思うのは/こころの 錯覚」

 彼の中に「残っていた埋み火」(p.110)を、ふたたび炎としたのは誰だったのでしょうか。

 「身に受けた『傷口』から/栄養が取り入れられ/いのちの限り生きていく/それがなんで/絶望などであるものか」

 彼において、「傷口」は「いのち」へと逆転しています。旧約聖書イザヤ書の「苦難の僕」や新約聖書のイエスの十字架につながる宗教性を感じないではいられません。

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