422 「控えめなキリスト教色とゆたかな想像力」  「ナルニア国物語? ドーン・トレッダー号の航海」(C・S・ルイス著、土屋京子訳、光文社古典新訳文庫、2017年)

 この世界の果てには何があるのでしょうか。この世界の果ての向うには、こんどは、どんな世界が待っているのでしょうか。誰が待っているのでしょうか。そこに行かないと会えないのでしょうか。それとも、向こうからこの世界に会いに来てくれるのでしょうか。

 二千年前、イエスは「神の国が来た」と言いましたが、イエスに続く人びとの中には「神の国に行く」ことを考えた者もいました。ドーン・トレッダー号は世界の果てを目指して冒険の航海を続けます。

 ナルニア国物語シリーズの真の主人公は、子どもたちにとって一番大事なときに静かだけれどもたしかな存在感で現われるアスランです。

 アスランは、聖書で言えば、イエス・キリストのような存在です。たとえば、ドラゴンをアスランが水に放り込んで引き上げた行為は、洗礼を思わせます。

 「きみはアスランを知ってるの」「うん。ていうか、むこうがぼくを知ってるんだ」という子どもたちのやりとりも、イエスの言葉を思わせます。

 アスランは言います。「むこうの世界では、わたしは別の名前で呼ばれている。あなたがたは、わたしをその名前で呼ぶことをおぼえなくてはならない。あなたがたがナルニアに連れてこられた理由は、まさにそれなのである。ここでわたしのことを少しばかり知ることによって、向こうの世界でもわたしをよりよく知ることができるだろう」(p.372)。

 ナルニア国物語シリーズには、子どもたちにわかりやすくキリスト教を伝える準備をするという意図があることを、ここでは、アスラン自身にかなりはっきりと語らせています。

 やがて「わたしは良い羊飼いである。わたしは自分の羊を知っており、羊もわたしを知っている」というイエスの言葉を聖書で見つけたとき、子どもたちは、アスランについてのかつての自分たちのやりとりを思い出すのでしょうか。

 とは言え、キリスト教が表に出てくるところはそんなに多くなく、むしろ、ゆたかで深い想像力に満ちたファンタジーが全編の基調になっています。

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