402 「もっとも苦しんでいる人びとの「普遍的な権利に基づいた普遍的な声」を反映する政治を望みます」

ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か」(水島治郎著、中公新書、2016年)

 安倍内閣憲法改正を国会で決議し、国民投票に持ち込み、投票者の過半数の支持を得るかも知れません。そうすれば、手続き上は問題なしに、憲法が改正されることになります。その改正内容が、人類の普遍的な価値に沿ったものではなく、為政者や国民の劣情によるものだとしても。

 「現代のポピュリズムもまた、『解放と抑圧』の二つの顔を持っているといえよう」(p.6)。

 ポピュリズムとは要するに「相対的に多くの人びとが言っているとおりにすべきだ」ということでしょう。沖縄県民の半数以上の支持に基づいて翁長知事が辺野古新基地に反対し続けるのは、健全なポピュリズムに思えますが、辺野古新基地建設を暴力によって強行する安倍政権に圧倒的多数の国会議席を与えてしまう日本有権者には悪しきポピュリズムがはびこっていると考えられます。

 デモクラシー(民主主義)は民が中心で、多数が民の意見とされますが、では、どんな意見でも多数ならばよいのか、外国人を排斥せよという声が多数ならばそうすることが民主主義なのでしょうか。ポピュリズムは民主主義が内包する矛盾と本書では見なされています。

 げんに、ヨーロッパやアメリカ、そして、日本のポピュリスト・・・トランプ、橋下・・・らは、既成政党の「非難」とともに、排外主義的な主張をします。

 ヨーロッパのポピュリストは「反民主的・人種差別的イデオロギーに基づき移民を排除するのではなく、『リベラル』な価値を守り、『デモクラシーを守る』がゆえにイスラム系移民を排除する、という論法をとる」(p.128)ことによって、「『極右』には同意できなくともこの主張には賛同できる」(p.115)という層の支持を得るそうです。

 EU離脱に賛成したイギリス人は「地方の荒廃した旧工業地帯や産炭地域の白人労働者」(p.194)であり、トランプを支持したのも旧工業地帯の白人労働者だったそうです。彼らにして見れば、移民や難民が社会福祉生活保護の対象となるのは「特権」に見えるそうです。

 多数決による民主主義は、他の弱者よりも自分たち弱者の利益を求める「生活感情」を選ぶのか、それとも、人類普遍の基本的人権生存権擁護の理念を貫くのかが問われているのでしょう。

 本著では、トランプらに代表されるポピュリスト政治家の独裁性、ファシストとの類似性が論じられていないことに、物足りなさを感じました。

 日本のポピュリスト政治家と呼ばれる橋下などは、既成政党批判もしないではありませんが、既成大政党である自民党との親和性が目立ちます。既成大政党の小泉や安倍が「改革」というのは、ヨーロッパのポピュリスト政党のおいしいところどりでしょうか。

 現代のポピュリズムの持つあたらしい側面にも注目しなければなりませんが、どうじに、これまでの右派政治、独裁政治との類似性にも十分注意しなければならないと思います。

 どういう言葉を使うかどうかにかかわらず、やはり、すべての人びと、とりわけ、もっとも苦しんでいる人びとの「普遍的な権利に基づいた普遍的な声」を反映する政治を望みます。

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