この本の題名は、中味を和らげて伝えているかもしれません。「雇用なしで生きる」とは、自営業者になる、ということだけを意味するのではないからです。あるいは、「もうひとつの生き方」とは、個人の生き方ではなく共同体の経済関係のあり方のことだからです。
雇用なしに生きるにはまず「地域の人の繋がりを深めること」ですが、それは「社会を変えるきっかけを創る」(p.8)ことになります。つまり、この本は、「本当の自分探し」ではなく、経済関係革命の本なのです。
たとえば、「時間銀行」というものが紹介されています。これは単純に言えば、誰かのために1時間働けば、誰かが自分のために1時間働いてくれる、ということです。けれども、働いた時間より働いてもらった時間の方が長くても、構わないようです。
この「時間銀行」を通して、「どんなこと(労働、サービス、知識など)でも同じ価値を持つということに気づくことができる」「皆で協力し助け合うことで、お金で買えないものが手に入る」「『自分には何のとりえもない』と思っている人も、できることがあると知り、自信を持てる」(p.48)など、雇用を中心とした資本主義の経済関係にはないものが得られると言います。
最後の方に「マリナレーダ」という村が出てきます。ここでは家賃15ユーロで、車庫、中庭付き、二階建て(二階に三つの寝室)の家が借りられるそうです。それ以外にも、文化、スポーツ施設、保育園などの設備やサービスが、無料か低価格。
村長は「既存の市場主義やブルジョア民主主義、社会民主主義、伝統的な大労働組合、大マスメディアはもはや『不要である』」と言い切り、「その代わりに、連帯経済や再生可能エネルギーの推進、食糧生産や住宅建設、資源開発などあらゆる用途の土地の公有化など、現在の政治・経済制度とはまったく異なる仕組みを築く必要性を訴え」(p.178)ていると言います。
著者自身は「現代資本主義世界で当たり前とされてきた生き方とは別の生き方を、追求しなければならない。人間同士の信頼と繋がりに根ざした生き方をしたいと、思わなければならない。『お金』や『財産』ではなく、『人』と『信頼』と『分かち合い』に価値を置く。『経済成長』ではなく、『持続可能な社会』を望む。『権力』ではなく、『市民』が主体となって生活や社会を築き、動かしていく。そんな生き方を理想として生きていきたいと、思わなければ」(p.192)。
ほら、自営業や自分探しではなく、革命のお話しだったでしょう。