(71)「もっとも大切なことは、自分が生きているこの世界と、この時代と、そして、自分の人生への信頼です」

ある親が子どものことで先輩に相談に行きました。「わたしは、あの子を小さいころから塾に行かせました。勉強ばかりでは駄目だと思い、スイミングにも通わせました。それだけでも足りないと思い、本もたくさん揃えました。早くからパソコンにも親しませました。英会話も習わせました。家族旅行にも連れて行きました。良い映画もたくさん見せました。これからも、何でもさせ、行きたい学校に進ませ、やりたい仕事に就かせたいと考えています。あの子は幸せな人生を歩むことができるでしょうか。豊かな人生を送ることができるでしょうか。わたしはそのためにどうしたらよいでしょうか」。

先輩は答えました。「あなたに欠けていることがみっつあります。ひとつは、そうしたことをすべて止めること。お子さんのためにあなたが何かしようと思わないこと。つぎに、あなたのお子さんを信頼し、あなたの子どもに任せること。そして、あなたのお子さんが生きる世界と歴史を信頼し、なんとかなる、と信じること」。

聖書によると、イエスのところに金持ちの青年が訪ねてきます。「先生、どうしたら、わたしは、神さまに顧みられますか。殺すな、不倫をするな、盗むな、嘘をつくな、父母を敬え、身内は大事にせよ。これらの掟はしっかりと守っています」。

エスは答えました。「あなたに欠けていることがふたつあります。ひとつは、財産を売り払って、貧しい人びとにささげること。もうひとつは、わたしにつき従うこと」。

エスは怪しい宗教の勧誘をしているのではありません。わたしたちの人生を根本で支えてくれるのは、自分で何とかしようとするさまざまな試みではなく、つまり、自分自身や自分の行為や思考ではなく、じつは、神であることを教えているのです。その神に委ねること、その神を信頼することを教えているのです。

もちろん、お金は必要です。最低限度+アルファは必要でしょう。それは経済生活を支えてくれます。けれども、人生そのものを支えてくれるわけではありません。

お金も人間関係も必要ですが、わたしたちにもっとも大切なことは、自分が生きているこの世界と、この時代と、そして、自分の人生への信頼ではないでしょうか。

不安なことはいろいろあるけれども、きっとなんとかなる、どうなるかはわからないけどどうにかなる、という信頼こそが、わたしたちの人生を支えてくれるのです。イエスはそれを神への信頼として言い表したのではないでしょうか。