12・・・「神はこの子を引き上げてくださった」

おまえらが憎い
おまえらが恐い
だが、おれの王座を脅かそうとしても無駄だ


おまえらに命じる
男の子が生れたら
みな、ナイル川に放り込め


なんてかわいい子だ
川に放り込むことなんてできない
ずっとここに隠しておこう


日に日に泣き声が大きくなる
もはや隠しとおせない
見つかってしまえば
家族全員が殺される
なんてことだ
この子を川に放り込むしかないのか


そうだ、籠に入れよう
川に放り込めという命令だが
籠に入れてはならないとは言われてない
水が入らないように
タールとアスファルトを塗るんだ
急に流されないように
葦の茂みに置こう


あんなところに籠がある
なんだろう
とって来なさい


何が入っているのだ
男の子じゃないか
こんなに泣いて
かわいそうに
ああ、これはきっと
あの者たちの子どもだ
だから、川に置かれたのだ
ふびんなことだ
乳を飲ませてやりたいものだが


王女さま、あの者たちの乳母を呼んできました


わたしに代わって
この子に乳を飲ませ
育ててやってくれ
お金は払うから


お預かりしたあの子が
こんなに大きくなりました


よくやった
今日からこの子はわたしの子だ
わたしがここで育てる


川に放り込まれたこの子を
神は引き上げてくださった


死の淵に落とされたこの子を
神は引き上げてくださった