「みんな、神様をつれてやってきた」（宮嶋望、2008年、地湧社）
宮嶋さんは世界有数のチーズを創り出した共働者たちのひとり。新得共働学舎代表。「しんとく」と読みます。地図で見ると北海道の真ん中。富良野の近くと言えば近くです。
自由学園で過ごした宮嶋さんの少年、学生時代。アメリカ留学生活。そして、新得町入植。「心身に不自由さや悩みをもち、家庭や職場や学校になじめず心の置き場を失った人たち」と共に生活し共に働く共働学舎の開設。農業、畜産業、チーズづくりの歩みがこの本には記されています。
そして、あちこちに、ともに生きる中から共に「学んだ」（「学舎」というくらいだから・・・）ことがちりばめられています。
「それからだ。『この仕事をやれ』ではなく、『おまえ、今日は何をやるの？』と尋ねるようになった。自分がやりたいこと、自分がやらなければならないと思っていることを自ら考え、自己申告させることにした」(p.96)。
「それからだ」とあるように、ある出来事を通して、宮嶋さんはこのことを学んだのです。それはひじょうに厳しい出来事である場合も少なくありません。
「彼が包丁を突きつけながら伝えようとしていたことが、その瞬間にわかった気がした。彼は人がかぶった仮面を外そうとしていたのだ」(同)。
「包丁は投げても的を外すことができる。言葉は真実であれば外せない。心にぐさっと突き刺さるのだ。すると人は耐えられない・・・僕らは親切で子どもらに「あなたはここができない」「ここをなんとかしなさい」と言う。でも、言えば言うほど子どもはできなくなる・・・大事なのは、どうしたら自分の弱点を自分で認識し、それでもいいんだと認めることができるようになるかだ」(p.98)。
「口に入れて「いけるよ。うまいね」と反応する。でも必ず「ちょっとこれ、焦げ過すぎたね」とか「これ、塩加減を多くしたほうがいいよ」とか、一つだけ注文する。もうちょっと工夫すれば、もっと良くなるはずだよと伝える」(p.107)。
子どもに関わる読者もおおいに学ばされます。
ところで、「みんな、神さまをつれてやってきた」。この書名にはどんな意味が込められているのでしょうか。
「心身に不自由さや悩みをもち、家庭や職場や学校になじめず心の置き場を失った人たちは、モノにあふれたこの社会で誰もが必要とする“何か”を、必死に求めている存在なのではないか。社会のゆがみを一身に背負うことによって、僕らに先んじて次の社会をつくるのに不可欠なものを探しつづけてくれているのではないか」(p.181)。
宮嶋さんは、そして、そこに集う人びとは、おたがいから、今の社会には欠けていて、新しい社会を作るために必要な大切なことを学びあっているのだと思います。
同時に、ここには、つぎのような聖書の箇所も響いているようにも感じました。「イザヤ書53:3 彼は軽蔑され、人々に見捨てられ／多くの痛みを負い、病を知っている。彼はわたしたちに顔を隠し／わたしたちは彼を軽蔑し、無視していた。53:4 彼が担ったのはわたしたちの病／彼が負ったのはわたしたちの痛みであったのに／わたしたちは思っていた／神の手にかかり、打たれたから／彼は苦しんでいるのだ、と」。
「僕ら人間は自然からずっともらいっぱなしのように、人と人との関係は、与えっぱなしで、もらいっぱなしで、それが本来の姿なんだと思う」(p.197)。
これも、学舎に集う人びとから学んだ大切なことでしょう。ここにも「マタイ10:8ただで受けたのだから、ただで与えなさい」のような聖書の言葉が潜んでいるように思われます。
「社会の中で存在する意味が見いだされなかった人の中に、次の社会をつくり出す新しい可能性を見つけることができたら、それは僕らの宝となる・・・共働学舎新得農場を三十年続けてきて「何をしてきたか」と問われたら、僕は「宝探し」と答えるだろう」(p.206)。
宮嶋さんが学舎で迎えた人々は「宝」だったのです。彼らの中には「神さま」という宝が宿っていたのです。ひとりひとりは、学舎に神さまをつれてやってきていたのです。
「マタイ13:44 「天の国は次のようにたとえられる。畑に宝が隠されている。見つけた人は、そのまま隠しておき、喜びながら帰り、持ち物をすっかり売り払って、その畑を買う」。
