「漫画 メキシコ榎本殖民史 サムライたちのメキシコ」(上野久原作、2008年)
19世紀後半、メキシコ南部に移住し、原生林を開拓した日本人がいる。ちなみに、東アジアの場合とは違い、土地は武力によって取り上げたものでない。最初は、榎本武揚の計画によるものだったが、やがて資金援助を断ち切る。けれども、移住者たちは、私有財産を認めない代わりに衣食住を提供する方式の共同組合を立ち上げ、農園や学校の経営に成功する。
他方、榎本に賛同した別の政治家による計画によって、無教会主義の布施常松が内村鑑三のすすめもあり入植。キリスト教精神に根ざす理想郷建設を目指す。その意志は植物学者、松田英二に継がれる。メキシコ人労働者に給料をごまかざすに払うと驚かれたので、「神は常に見ている」と答え、それをきっかけに、聖書の集会を開き、識字教育も提供。無教会の「教会」(?)ができる。松田は植物研究もつづけ、メキシコ国立自治大学や東京大学からも評価される。
日本人がすばらしい働きをした、というだけのお話しではない。第二次世界大戦中は、アメリカ、カナダ、ペルーなどで日系人は収容所にいられたが、メキシコでは、いったん、メキシコシティなどに集められたものの、松田が大統領にあてた一通の電報により、すぐに、居住していた土地に帰ることが許されたのだった。