(26)「一緒にいてくれる人がいるから、恐れることはありません」

「おまえたちを連れて行ってやれなくて、すまなかった」。監督先生は、後日、生徒たちにこう謝りました。中学校生活最後のサッカー大会。都大会出場権をかけた11試合目に敗北したのです。試合の直後には、「力をすべて出し切ったね」ともねぎらっていたそうです。監督は生徒たちを都大会以上にすばらしいところに導いたと思います。

終戦のスタンドには、学年主任の先生も駆けつけてくれました。対戦相手の私立中学の生徒たちを見て、「でかいなあ」。連れてきた幼いお嬢さんには、「お兄ちゃんたち、一所懸命に走ってるねえ」。試合終了の笛が聞こえると、目を潤ませて、「サッカー部、毎日練習がんばっていたから、勝たせてやりたかったなあ」。

たとえサッカーの一試合に負けたとしても、こういう人たちがいつも一緒に入れくださるのなら、子どもたちの人生は、何も恐れることはないでしょう。

福岡県の高校野球の女子マネージャー。スコアをつけたり、投げ終えたピッチャーに冷却用の氷水を渡したり、いつも選手たちを鼓舞したり、一生懸命でした。ところが、昨夏、応援中に背中に痛みが走ります。12月、部員に集まってもらい、腫瘍があり、入院することを伝えます。すると、「みんなで甲子園に連れて行く」と励ましてくれました。

5月の土曜日。監督から「皆で病院に見舞って来い」と言われます。二十数人の励ましの言葉に耳を傾け、ギャグには手を叩いて笑う彼女のベッドを皆で囲み、ブイサインで写真撮影。「甲子園に連れて行く」「勝ち進んで、時間を作るから、その間に治して」と約束。

月曜日、彼女は旅立ちました。選手たちは「どんなに苦しくてもあきらめない」と誓い、天国の彼女には「そこからスコアをつけてほしい」と頼みました。彼女はきっとそうしてくれるでしょう。いや、彼女は、予選の一試合一試合も、ベンチの真ん中で、いっしょに闘っていることでしょう。

聖書によると、イエスの弟子たちは大きな湖を舟でわたっていました。そこにはイエスの姿はありませんでした。やがて、強い風が吹き始め、大きな波が舟を襲います。すると、イエスが湖の上を歩いて、こちらに向かってきます。「わたしだ。恐れることはない」。この声を聞くと、舟はまもなく岸にたどり着いたのでした。