283  「宣言や数字だけからは伝わらない福島の人びとの生きた声」

「ふくしまノート1」(井上きみどり、TAKE SHOBO、2013年)

放射能から家族を守ろうと会津に避難している方々のお話しをうかがったことがあります。また、強制避難区域に残した家や土地に帰れる日を待ちつづけ、線量の低下に希望を抱きつつも、はたして大丈夫かという不安や疑問をも併せ持つ方々からも。同じ福島県でも場所によって、人によって、立場によって、感じ方や考え方もさまざまです。

また、科学的な数値は重要だと考えつつも、数字が何を示しているのかわからない、どのくらいの数字だったらどうなのか判断が難しいと思っている人びとも少なくないでしょう。福島の人にも他都道府県の人にも。

この本には、数字はあまり出て来ず、マンガだから、とても読みやすいです。測定値よりも、人びとの経験談から、「ふくしま」のさまざまな側面をわかりやすく描き出しています。

原発事故から避難する旅や避難先での日々、また、(強制避難地域にはならなかった元来の居住地への)帰還後の生活や心模様が垣間見られます。

驚いたのは、福島の母子を全国各地に夏休みなどの間避難させる無料プロジェクトの中には怪しいものがあり、母親にその期間だけその地で風俗で働くように誘ったりするものもあるということです。さまざまな悪質な事業がいろいろなところに入り込んでいるのでしょうね。

事故原発に近く業務停止命令が出されたあとも患者さんを見捨てられず残った看護師さんの話には、とても心が痛みました。さぞ苦しかったことでしょう。

避難者はアンケートへの回答を求められることが多いようですが、避難者の健康や生活向上のためというより、ただ統計をとっているだけではないかという感じるというお母さんの話もありました。

「福島の問題はまだ終わってない」

「今の福島のことを知って下さい」

「ここで生活している私たちのことを忘れないで下さい・・・!」

総理大臣の「安全宣言」よりも大事なこと、数字で語られる安全・危険と同じくらいに大切なこと、つまり、福島の人びとの声がここにはあるのです。

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