(92) 「悪いものも良いものも膨らみますが、良いものが悪いものを覆い尽くします」

 6月23日。沖縄戦没者追悼式で、少女が祈るように読み上げた詩には、「戦力という愚かな力を持つことで、得られる平和など、本当は無い」という一節が刻み込まれていました。他方、その式に参列していた安倍首相とその政権は、沖縄・辺野古に米軍基地を新設し、あらたな戦力配備を許そうとしています。

 少女の言葉は、日本の戦争によって四分の一の住民が殺された沖縄の人びとの祈りが終戦後連綿とつづいてきたこと、そして、地下茎のように深く広がってきたことの証しではないでしょうか。73年前に島を包んだ祈りは、今日に至るまで、その土に浸み込み、その空気を染めつづけてきたのです。

 他方、安倍政権への支持も、拡大してきました。ヤマトでは、沖縄の米軍基地反対の声は高まるどころか、反対の声への反対が、誹謗中傷、ヘイトスピーチレベルに達しています。選挙でも、安倍政権に加担する議席数の大幅増大を許してしまっています。沖縄でも、辺野古新基地絶対反対を訴える政治家が落選しています。すくなくとも、表面的には、「あきらめ」が拡大しているように見えないことはありません。

 戦力放棄の声も、戦力拡大のスローガンも、どちらも、広がっているように思われます。

 新約聖書によりますと、イエスは、偽善者や暴君の「パン種」に気をつけろ、と弟子たちに訴えました。イースト菌があれば、偽善や暴力、暴政は膨らんでしまう、という意味でしょう。

 他方、イエス自身は、数個のパンを数千人の人びととわかちあった、という伝説も記されています。イエスから、偽善や暴力、暴政と正反対のもの、つまり、誠実と非暴力、平和、愛が、人びとの間に広まっていったことを象徴する話のように思えます。

 悪いものも良いものも増殖します。地表では争いや憎しみが広がっていますが、地下では、そして、宙では、目には見えないけれども、平和と愛も、膨らんでいます。後者が前者にまさり、覆い尽くすことを信じたいと思います。

(マルコ8:14-21)