「クローディアの秘密」(E. L. カニグズバーグ、1975年、岩波少年文庫)
良質な児童書は大人にとっても読みごたえがあります。子どもたちを成長させる栄養は、おとなの心も育んでくれます。
「チームになったというのは、いい争いがやんだという意味ではありません。そうではなくて、いい争いも計画の一部となり、議論ではなく話し合いになったということです。外からみれば、いい争いはまえとちっともかわっていないと映るかもしれません」。
原書ではどういう単語が充てられているのでしょうか。「議論ではなく話し合いになった」は、じつは、「けんかではなく話し合いになった」という意味ではないでしょうか。議論とはまさに話し合いのことなのですから。見かけは「いい争い」のままのように見えても、平行線の口論がただ続いているのではなく、本来の姿の議論のように、二つの意見から始まって、それらが交換され、問われ、練られ、改鋳され、新しい何かが生まれるのです。そういう者同士に育って行きたいと願います。
「わたしはお金よりも秘密をもっているほうがいいのよ」。これはミケランジェロ作とされる彫刻を博物館に安く売った大金持ちの老婦人の言葉です。「秘密は安全だし、人をちがったものにするには大いに役立つのですよ。人の内側で力をもつわけね」。
たしかに、お金は危険だし、人を今のまま成長させてくれないかも知れません。秘密は人を育んでくれます。けれども、悪事の隠ぺいや自分のごまかしのことではありません。それは、たとえば、家出の計画や美術館にかくれて生活する方法を考え実行することです。
ぼくたちはどんな秘密を持てるでしょうか。思いついても、すぐに口に出したり、実行したりせずに、心の中で、じっくり思い巡らし、あたため、そして生み出していくすてきなことを見つけ出したいと思います。
「日によってはうんと勉強しなくちゃいけないわ。でも、日によってはもう内側にはいっているものをたっぷりふくらませて、何にでも触れさせるという日もなくちゃいけないわ。そしてからだの中で感じるのよ。ときにはゆっくり時間をかけて、そうなるのを待ってやらないと、いろんな知識がむやみに積み重なって、からだの中でガタガタさわぎだすでしょうよ」。
ゆっくり時間をかけて、たっぷりふくらませ、それをからだの中で感じる。秘密とは、まさに、いのちを宿し、育んで、生み出すことなのです。すぐにあからさまにせずに秘密として宿す、これが成長の条件なのです。
ところで、「精神通信」という語が出てきましたが、これは、telepathyのことでしょうか。自分たちが隠れている場所のまえでとまった足音の主にたいして「いけ、いけ、いけ」と念じるのですから。