84 「決闘対話へと導いてくれる者」

「ツナグ」(辻村美月、新潮文庫、2012年)

 死んだ人をホテルの一室に呼び出して、再会をリクエストした生者とひきあわせる。これがツナグの仕事。

 しかし、読み進めば、これが推理あるいはオカルト小説でないことは、すぐにあきらかになります。

 では、死者と生者が生きている時と同じ姿や同じような言葉遣いでともに過ごす一夜は何を意味するのでしょうか。

 夭逝のタレントとうだつのあがらない三十代の女性。

 オヤジ丸出しの中年と母。

 親友同士の女子高演劇部二人。

 ある日突然現れ、ある日突然去って行った彼女を待ち続ける過労社員。

 そして、ツナグ・・・英訳されるとしたら単数なのか複数なのでしょうか。

 死者と話して何か良いことがあるのでしょうか。人は言葉によってどん底から起き上がらされ、どん底につき落とされます。それでも、なお断ち切れないモノがあります。倒れた木の切り株から横にのびる芽もあります。

 人は誰かと、決闘のようなぎりぎりの対話をし、悩み、考え抜き、変化し、旅をします。ソダツ、と言っても良いかも知れません。

 その相手は、生きている人だけとは限りません。心から相手の言葉を聴こうとするのであれば、死者との対話は、トリックでも超常現象でもありません。

 方法は、ツナグを探し当てて依頼するばかりではないでしょう。