11 「傾聴、そして」

「カウンセリング入門」 佐治守夫著

ひたすら人の話にじっと耳を傾ける、自分の思いではなくその人の声に集中する、これは、習得できないなりにも、傾聴に関する何冊かの本に時おり目を通しながら、ここ二十年間、意識の中に保とうとしてきた姿勢でしたが、今回、この本を読んで、教えられた点がいくつかありました。

ひとつは、話を聞きながら、「ああこの人はこのような気持ちなのだな」と共感したつもりになっても、じつは、それはその人の一部に過ぎず、一部にフォーカスしすぎることで、その人の他の多くの部分を捨ててしまっている場合がありうるということです。

ああ、この人はこのことでこんなにつらいのだなあ、ああ、この人はこの問題でこんなに苦しんでいるなあ、と感じつつも、この人には別のことで別の感情や姿勢もありうることに開かれていなければならないことを学びました。

それから、耳を一生懸命に傾けようとすると、その人が語っている話の筋道とか、事実関係、具体的な状況に囚われてしまい、それを知的に明確に把握する構えになってしまい、そのことで、その人の不安や怒りなどをかえって置き去りにしてしまったことに、あるいは、聴くのではなく問うことになっていたことに気付かされました。わたしなどは、とくに、ものごとを直線的な因果関係や展開で追おうとしがちなので、これまでずいぶんと人の気持ちを聞きそこなってきたと思います。

もうひとつ。クライアントに変化があるとすれば、それは、どんなことを話しても耳を傾けてもらえるという安心や、聴く側が語り手に対して抱く不安や違和感などを偽ることなく認め、語り手を脅えさせることなく、しかし、ごまかしたり隠したりすることのない誠実な態度、このような関係においてである、ということです。つまり、語り手は、これまで自分が傷ついてきた、欺瞞、暴力、無関心とはまったく違う人間関係の中に、聞き手との間でおかれ、この新しい関係の中で、変化が生まれるということです。これまで、わたしは、共感を心掛けるだけで精一杯で、そこで、安心や誠実という時間・空間を招き入れることには思いが至っていませんでした。

1966年に初版が出て、手もとにあるのが2002年26版だから、かなりのロングセラーですね。