「日本人のための平和論」（ヨハン・ガルトゥング著、御立英史訳、ダイヤモンド社、2017年）
AとBのあいだに葛藤があるとき、五つの解決法が考えられる。(1)Aの主張が勝つ。(2)Bの主張が勝つ。(3)AB両者の妥協点を見つける。(4)ABが決裂する。(5)ABが満足できる解決策を見いだす。
ガルトゥングが目指すのは(5)である。彼はこれを「平和」と呼ぶ。安倍政権やアメリカが目指すのは(1)だ。（Aは安倍でありアメリカだ。）彼らの国会運営や行政にやり方を見ていればわかる。
では、(5)に到るにはどうしたよいのか。まず、「相手の立場に立ってそのコンフリクトを見ることが大切だ。相手の立場に立って、感じ、解釈し、理解する」(p.229)。簡単なことではない。そう心がけても難しいのだから、相手の立場など意にも介さない者どもには無理に思える。けれども、そうすることが当然、という価値観が世界に定着することを願わずにはいられない。
それから、「『その根底にある対立をどうすれば解消できるか？』と問わなくてはならない」(p.61)。たとえば、ある島の領有をめぐる二国間の主張の相違においては、相手を抑え込もうとするのではなく、共同所有によって、島と近海からの収益をわかちあうことだと言う。
あるいは、「対話、協同行動、共同プロジェクト、トラウマの解消、根底にある対立の解消」(p.179)というようにもまとめられる。
それから、あたらしい概念を取り入れることも大切だ。7から5を引けば2だが、5から7を引くとどうなるか。困った。いや、負の概念を導入すればよい。平和構築においても、社会にこのような「あたらしいリアリティを持ち込んで国家間の紛争を超越しようとする」(p.227)。べきなのだ。
では、日本に平和を構築するにはどうしたらよいだろうか。それを阻止する第一要因は「米国への従属」(p.1)だと著者は明言する。
では、日米安保撤廃かというと、安保には手を触れないで、基地の撤廃を求め、（自衛隊については）「攻撃的兵器から防御的兵器への軍備転換を検討すべき」(p.39)と言う。それが実現すれば安保には埃がかぶると。絶交はしないけれども、その足は除けてください、と言うことか。たしかに、安保も米軍基地も即時撤廃が望ましいが、一挙にそうすることは難しいので、まずは、基地撤廃をと言うことだろうか。「自衛隊がいますから、お引き取りを」と言うことか。
ガルトゥングは、さらに衝撃的なことに、憲法9条の改憲を説く。もちろん、安倍政権とは正反対の方向で、だが。
「ほとんどの日本人は9条がすべて面倒を見てくれると信じ、代替案が必要などと考えもしなかった。9条のおかげで国家間の対立や戦争のことで頭を悩ませる必要がなかった。憲法9条は崇高な理念を謳っているが、それゆえに躓きの石となり、安眠枕となっていたのだと言える」(p.224)。
たしかに、9条を枕に安眠して、沖縄の米軍基地撤廃に（ヤマトの者が）必死に取り組むこともなかったし、東北アジアに平和な共同圏を構築しようともしてこなかった、と言えるかも知れない。しかし、それなら、9条は安保と変わることがないとも言えよう。
「私は新しい憲法9条の制定に賛同する。しかしその内容は、憲法改正を望む大方の人々が考えている内容とは異なる。私は新9条が、より前向きな意思の表明となることを願う。これまでどおりの反戦憲法であるにとどまらず、積極的平和の構築を明確に打ち出す真の平和憲法であってほしい。平和とは何かを明記し、公平と共感の精神を高く掲げるものであってほしい」(p.225)。
けれども、これにはすぐに同意できない、日本人の歴史、罪責、責任の歴史がある。憲法9条を維持すべきか。それとも、新憲法9条にして、平和構築を前面に打ち出すべきか。
この葛藤解消にこの本で学んだことを応用するならば、ぼくは、憲法9条は維持しながら、その具体化、内実化のための議論を、国際社会（国際シンポジウム）、国会、自治体の議会で展開すべきだと思う。また、小中学校や市民集会、政党集会などでも議論すべきだ。そして、憲法9条を根底としながら、より積極的に平和を構築する非暴力、非武力の策を考え、条例化、法制化するのである。いかがですか。
日本は、諸外国や外国人住民の力も借りて、憲法9条の内実化・具体化という課題にこれから百年取り組み、その結果、世界平和の積極的に貢献する。
