53 「あの『してあげる』からの卒業」

「子どもの心を救う親の『ひと言』」(諸富祥彦、青春出版社、2011年10月5日)

 題名とはうらはらに「『何か、気の利いたひと言を言ってあげよう』とする親御さんの姿勢は、マイナスにしかならないことの方が多い」(p.214)と、著者はまっとうなことを述べています。

 そして、悲しんだり、心配したりしている子どもに何かを言うとすれば、それは、上からのアドバイスではなく、子どもの気持ちに寄り添おうとするためのものであるべきなのです。

本書は、そのように、まず聞き寄り添うこと、とセットになった「ひと言」がいくつか示されています。

 たとえば、「お父さん、お母さんには、もういやだ。話すの、やめた」という子どもには、「なんで、そう思うの!?」と問い詰めるのではなく、「そうか。もう、いやか・・・・・・・。そう思っちゃうこと、何か、あったのかな?」と声をかける、と著者は言います(p.74)。

 悲しんでいる場合も、「その時、何があったの?」「それから、どうしたの」と「問い質す」のではなく、あるいは、「ツラかった場面の『出来事』『内容』の話しをさせるのではなくて、その出来事についての『気持ち』を『感じてもらうこと』」、そして、それに寄り添おうとすることが大切なのです。

 他にもいろいろ参考になりました。50代の教師には、柔軟性がなく、例外を認めない者が多い、20代の教師は、生徒になめられると手がつけられなくなると恐れ、厳しい者が多い、という指摘。わたしは50代ですが、なめられるのを恐れています。

 「褒める」のではなく、子どもの頑張っている姿を見て、うれしい気持ちになったことを伝えるのが良いということ。「褒める」とはそもそも上から目線だそうです。「もっと友だちを作りなさい」という言葉は、その子の現状を否定し、「自己否定的なイメージを募らせ、ひとりでいることによって作られていく固有の世界を親御さんが潰してしまう結果につながりかねない」(p.133)こと。

 著者は明治大学教授ですが、大学以外の場でも多くのカウンセリングをし、その現場からの省察に基づいて、何冊も執筆してきた、この分野では信頼できる書き手だと思います。

 わたしは、子どもや生徒や出会う人々に傾聴しよう、寄り添おうと願いつつも、しかりつけたり、(表面的にはおだやかであっても結局)上から目線でアドバイスをし、その人をなんとか操作しようとしたりしがちなので、ときおり、この手の本を読むようにしています。子どもだけでなく、大人との関係においても参考になる一冊です。